つるつるの手帖

なにかおもしろいことないかなー

iOS「iBeacon」で出来そうなことを考えてみる

iBeacon

新型iPhoneの影に隠れてあまり話題になっていないようですが、iOS7に搭載された「iBeacon」という技術が面白そうです。こちらの記事でも取り上げられています。


これは、「ビーコン」から得られた個人の位置情報データを使って、様々なサービスを実現しようとするものです。また「iBeacon」で検索してみると「NFC」「ジオフェンシング」といった技術も一緒に取り上げられています。

これらは一体どういうものなのでしょうか?


このエントリーでは、人間の行動を把握する技術でどんなことができるようになるのか、あくまで私個人の想像をはたらかせてみました。取り上げた技術分野について詳しい人間が、現時点で実現可能なサービスについて書いたものではありませんので、ご承知おき下さい。
もし技術に対する基本的な認識が間違ってたりする部分がございましたら、ご指摘いただければ、内容を修正します。


ビーコン

「ビーコン」と言うと、道路の渋滞状況を把握してルート検索してくれるカーナビゲーションの機能が思い浮かぶのではないでしょうか。
車を運転する方にはおなじみの、VICS(道路交通情報通信システム)です。幹線道路に設置された電波ビーコンと呼ばれるセンサーからの信号を解析したデータが、交通情報として表示されています。「iBeacon」では、そのまま「ビーコン」という名前の樹脂製の端末がセンサーとして使われます。とても小さなものなので、ショップなどの店内にさり気なく設置しておけるそうです。技術的には、Bluetooth LEという省電力型の無線通信技術を使うため、ピーコンの電池は2年ほど持つとのこと。

VICSの場合は、リアルタイムの交通情報を得るための情報サービスの提供が目的となるわけですが、「iBeacon」の場合、すべての人に共通した目的があるわけではありません。アイディア次第で、目的を拡げていくことが出来そうです。

こちら動画をご覧いただくと、現時点でどのようなサービスを想定しているのかが、よく分かります。

Estimote Bluetooth Smart Beacon - iBeacon-compatible - YouTube


NFC

はじめに「iBeacon」と競合しそうな、NFCという既存の技術を取り上げます。先のエントリーでも取り上げた、SONYの「DSC-QX100 / QX10 」というレンズ型のデジタルカメラは、取り付けたスマートフォンとの相互通信を、スマホに搭載されたNFCという技術を使って行うそうです。
デジカメをスマートフォンに近づけると、自動的に通信が始まります。まずは、カメラに電源が入りコントロールするためのアプリが起動されます。撮影するための準備が自動で行われるため、ユーザーはすぐに撮影に取りかかれるわけです。

NFCWikipedia)について補足すると、SuicaなどのICカードにも採用されている「FeliCa」に良く似た近距離通信技術のことです。「Suica」や「おサイフケータイ」などの場合も、SONYのデジカメ同様、機器やカードを対象物に近づける(かざす)というユーザーの行動が、引き金(トリガー)となって、機器間で通信が行われます。

これらはいずれも「モノをセンサーに近づけるという意識的な行動から通信が始まる」というところがポイントです。
デメリットとしては、理論値で最大20cmほどしか届かないとされる、短い通信距離が挙げられます。
しかし、Suicaなど混雑した状況下で複数の利用者がいる場合、短い通信距離が逆に他の端末との混線を防ぐことにもなるため、それが利点となるような場面もありそうです。

ちなみに今回(2013年9月)発表された、新型のiPhone5s/5cに、NFCは搭載されていません。現時点で普及率がもっとも高いiPhoneを端末として利用できない点は、デメリットに挙げてよいのかも知れません。*1


ジオフェンシング

また、こちらもまだ頻繁に利用されているというわけではなさそうですが、GPS信号を用いた「ジオフェンシング(まとめ)」という技術もあるそうです。携帯端末のGPS機能を使ってユーザーの位置を特定し、設定した位置(フェンス)を越えた場合、端末に何らかのアクションを送信する、といった事ができます。
技術的に詳しいことはわからないため迂闊なことは書けませんが、iPhoneの標準アプリ「リマインダー」にも、自宅など設定した場所に近づい時に通知が届く機能がありますので、これも「ジオフェンシング」と呼べるのかも知れません。
先のNFCと違いは、こちらは「ユーザーが場所を移動するだけで、勝手に情報がプッシュ通知される」ということです。
また「ジオフェンシング」はGPS信号を使っているため、屋内では上手く機能しないことが、デメリットと言えます。


3つの技術を組み合わせる・使い分ける

「iBeacon」は、GPSでカバーできない室内での行動把握が可能になるため、GPSによる広範囲の位置情報との使い分けで、より正確な行動把握ができるようになります。
また、NFCと「iBeacon」では、行動が自らの意思によるものかどうかの判別に利用できそうです。

やはりこの3つの技術は、どれが優れているということではなく、組み合わせたり使い分けたりすることで、面白いサービスを実現できる気がします。

ただし、先の脚注の繰り返しになりますが、Apple自身はNFCが必要ではないと判断した可能性が高いです。確かに決済なども、カバンから端末を取り出さなくてもよい技術の方が、よりスマートです。
このエントリーの冒頭に取り上げたふたつの記事中でも、Gigazineの方は競合する技術として書かれていますし、APPBANKの方は住み分けが進むとの見解です。
また、競合する技術については、NFC以外にもQRコードICタグといったものがあり、コスト、利便性など、視点を変えればそれぞれにメリットが見えてくる場合もあります。また位置情報に関しても、店内での行動把握自体は、ある程度ラフな形だったらWi-Fiで実現できていると思います。ビーコンを介した、より細かな位置情報を必要とするサービスの実現には、まだまだ工夫が必要だと思います。

実現までの技術的な問題については、競合製品を含め、今後も動向を見守る必要があります。
現時点でのひとつの意見として、センサーとなる端末「ビーコン」を販売する、Estimote社についての最新記事を貼っておきます。

Estimote、iOS 7のiBeaconによるコンテキスト・ショッピングデバイスのサポートについて語る / 2013年9月13日


何に使えるのか

すでにネット上には、以下のようなアイディアが取り上げられていました。

  • 情報(クーポンなど)の表示
  • 決済
  • 店内での行動把握

それぞれのアイディアで、提供側、利用者側それぞれにメリットがありそうです。

例えば、販売店では商品に近づくとその情報が端末に表示され、割引クーポンが発行されます。この場合にも事前に登録された顧客ステータスを参照して、お得意様にはより高い割引率のクーポンを発行する、といったことが出来るわけです。商品を購入する場合、店側は包装のみを行い、退店と同時に決済が完了するため、時間短縮にもつながります。
また、購買を決めかねている顧客がいた場合、他の似たような商品の棚に誘導することもできるでしょう。Webでよくある「このような商品も選ばれています」というようなプッシュ型の商品紹介がリアルに出来るわけです。
先のEstimote社を取り上げた記事では、試着を繰り返して結局購買に至らなかった顧客向けに、特別クーポンを発行するというアイディアが紹介されていました。
また、店内の行動を把握できるため、顧客の関心の高い商品と低い商品を入れ替えるなど、陳列についても迅速な判断ができそうです。

挙がっている事例では、主に小売店などのビジネスの現場での利用が想定されているようですが、他にはどんなサービスが提供できそうでしょうか。


出来そうなことを考えてみる

出来そうなことを、考えてみたいと思います。
あくまで私の個人的な頭の体操です。ここでのポイントは、それぞれの技術を前提にサービスを設計しないことだと思います。実現可能であるのかは考えない方が、面白いアイディアが生まれると思いますので、中には飛躍し過ぎだったり、技術的に不可能なことも、挙がるかもしれません。
個人情報を取り扱う事の是非も考慮しないことにします。また、提供側、利用者側、どちらにより多くのメリットがあるのかを深く掘り下げることも、あえてここではしません。あくまでこのエントリーでは、面白いアイディアをたくさん出すことが目的です。

できるだけたくさんのアイディアを挙げることが大事なので、以降も継続して考え続け、アイディアを追記していきたいと思います(箇条書きの最後に日付を入れておきます)

____________________________________________________________________________________

■ 製品・商品の情報|位置情報

  • 大型のショッピングモールでのナビゲーション。現在位置を把握できるため、案内板では実現できない即時性のある動的な誘導ができます (9/21)
  • 美術館でのナビゲーション。iPad等を利用した作品紹介などは現在でも行われていると思いますが、位置情報を使うため、作品の前に立つだけで自動的に案内がプッシュされるでしょう (9/21)
  • カフェ等では、現在店内に流れているBGMを紹介して、そのままWeb上のストアに誘導することができます (9/21)
  • 大型ショッピングモールでは迷子になる子供がいます。また、痴呆が進んだ老人が屋外を徘徊する場合があります。どのような端末を子供や老人に持たせるのがよいのか、検討は必要ですが、GPSと「iBeacon」で、屋外屋外を含めた追跡ができそうです (9/21)


■ 決済

  • 現在、店頭の専用端末で行っているような注文(回転寿司や居酒屋など。iPadをメニューとして使っているようなものを含む)は、自分のスマートフォンから行えるようになります。退店時に自動で決済されます (9/21)
  • 小売店の役割は、ショールームに近くなるのかもしれません。気に入った商品があれば退店時に仮決済をしておき、その後24時間以内に購入を決めれば翌日自宅まで配送される、というような仕組みが構築できそうです。ネットショップで複数のショップを見て回り、誰に気兼ねすることなく買うものを決定する、といったことが、現実の世界でもできるようになるのかも知れません。小売店側も、実店舗に用意しておく商品数を抑えることができます (9/21)


■ その他

  • 来店ポイント。某電器店では来店時に専用端末を介して来店ポイントを顧客に与えていますが、大きなコストをかけずに同様のサービスが実現できるでしょう (9/21)
  • 購買ポイント。現在の小売店でポイントを付与する場合、その基準となるのは多くの場合購買金額ですが、これからはより細かなステータスに応じたポイントが付けられるようになるでしょう。例えば、来店頻度の高い顧客、多くの友人を連れてくる顧客、購買後のレヴューをしっかり書く顧客には、より多くのポイントが付与されるのも面白いと思います (9/21)
  • 万引き防止。店内での位置情報と顧客情報を把握しているわけですから、万引きはできないのではないでしょうか。スマートフォンを持っていることで顧客に与えられるインセンティブを上手に設定しておくことで、スマホを持っている顧客のみを集めるような工夫は必要です (9/21)
  • センサーを後付けできる点を活かし、車にも取り付けたらどんなことができるでしょう。より即時性の高い位置情報を(スマホやカーナビは介するが、情報の集約サーバを経由せず)個別の車両同士で直接やりとりする。例えば見通しの悪い交差点に侵入してくる車両がいる場合、お互いを減速させる。渋滞中には、そこにいる車両それぞれの目的地に応じて適切な車線に誘導し、全体最適化を図る、といったことができそうです(9/21)

____________________________________________________________________________________


……アイディアを出すのも、難しいですね。私は技術的にもマーケティングも素人ですから、こんなものしか挙がりません……。

しかし面白くないと思えても、どなたかが読めばそこから発展するアイディアもあるのかもしれません。これらの技術を使って、なにか面白いことが始まることに期待したいと思います。

面白いことを思いついた方がいらしたら、是非教えて下さいね。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


9月26日 追記

こんな記事も見つけました。

Apple TV、iPhoneで「タッチして設定」が可能に。Bluetooth LEを利用

なるほど、文字入力が難しい(もしくは文字入力のためのインターフェースを持たない)機器の設定にiPhoneを使う、ってのもあるんですね。これも応用できそう。iBeacon、日増しに関心が高くなっている気がします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

9月28日 追記

http://instagram.com/p/ex5Go8F76E/
「9月28日 日経新聞」

今朝の新聞にも、衣料品販売のリアル店舗とインターネット通販を連動させる記事が。
記事中では専用アプリと店内のWi-Fiスポットを使って、ポイントを貯める仕組みが紹介されていましたが、これも、これからはビーコンのようなものに置き換わっていくだろうな、という事例ですね。

専用アプリってどうしても閉じた感じがして拡がらない気がする。
「iBeacon」の場合はOSレベルで対応している、既存のBLEを利用している、ってのがミソなのだから、リアル・ネット問わず、他のサービスと連携させられるように開発していく必要がありますね。

使ってもらえるものにするためには、このサービスを利用することでお客さんの何が便利になるのかを見つける必要がある。
記事中で紹介されているような、現状提供されているサービスについては、まだ店側の「売りたい」って気持ちの方が勝ってしまっている気がします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

10月3日 追記

アップルの位置情報サービス「iBeacon」--MLBの試験導入に見る可能性

アメリカの野球場で試験導入中の「iBeacon」についての記事です。広告や案内をiPhoneに送信することと併せて、入場チケットもETCのように通り抜けるだけで処理できますね。

10月25日 追記

こんなのも見つけました。米PayPal“支払い方法の未来形”「PayPal Beacon」を発表
……あれ?まだ挙動がいまいちわからないところがあるなぁ。
PayPalのサイトでも、この新しいサービスを使ったアイディアを募集しているみたいですね。

現在、PayPal Beaconウェブサイトではこの技術を使った開発者によるアイディアを募集中だ。アイディアを認められた開発者100人に対して、PayPal Beaconサービス開始前に無料の開発バージョンAPIを使用できる機会を与えるという。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

10/23追記

9月にこのエントリーを書いた時点では、日本語で書かれたiBeaconについての記事というのはネット上にまだ少なかったのですが、それから一ヶ月以上が経ち、技術に詳しい方の手による、より具体的な解説もいくつか見つけられるようになりました。
それらの記事にざっと目を通してみた後で自分の書いた項目を見なおしてみると、技術的に不可能であったり、既にある他の技術で十分実現できたりするアイディアも含まれるように思います。私が挙げたものは主にサービスに焦点を当てているため、iBeaconならではの技術を使って、というよりも、その後のアプリ側での振り分けや動作に依存する内容が多いのだと思います。

また、一番認識不足だった点は、iBeaconといえどユーザーが無自覚なままに常にバックグラウンドで動作するものではないという点です。デバイス側から常時センサーを探し続けることも可能だとは思いますが、せっかくの省電力がウリのBluetooth LEですから、現実的ではありません。あくまでロック解除等のタイミングでセンサーを探すという、シンプルな動作から何が出来るのかを考えないといけません。
Estimote社のビーコン紹介映像の中で、お客さんがiPhoneの画面を眺めながら店内をウロウロしている姿がなんか間抜けだなぁ、と思っていたのですが、それは専用アプリのようなものを立ち上げた上で、相互通信が実現された姿を描いていたからなのですね。
また位置情報にしても、電波の強さなどからの推測のようですので、私が想定していたほど局所的に位置を突き止めることは難しそうです。

近々、それらを踏まえ、新しいエントリーを書きたいと思います。

*1:もっとも、AppleはiBeaconがあるから、競合する可能性があるNFCを搭載しなかった、ということなのかも知れません。HTML5を取ってFlashに対応しなかったときのように。