つるつるの手帖

なにかおもしろいことないかなー

ビジネス書|2014年に読んだ本

ほとんどビジネス書を読まなかった一年

20代後半から30代半ばにかけて、書店に足を運べばすぐさま「ビジネス書」のコーナに向かっていた時期がある。当時は話題の新刊を中心に、年間20-30冊ほど読んでいたと思う。

そのような過去を持つ人間がこんなこと言うのは厚かましいが、世の中にこの「ビジネス書」ほど、ボンヤリとした、信念のない定義があるだろうか?書店の「ビジネス書」コーナをのぞいてみれば、それがわかる。

会計や資産運用などの実用書があれば自己啓発書もあり、マネジメント術や個人向けのライフハック本もある。著名な経営者の自伝、経営コンサルタントや敏腕営業マンが書いたハウツー本、「論語」などいわゆる一般的な古典、さらには柔らかめの哲学書や、「トンデモ」スピリチュアル本までが並んでいる。マンガ版や絵本と呼べそうな本まである。まったく、節操が無いことこの上ない。どの棚に並べるのか迷ったら、なんとか仕事にこじつけて「ビジネス書」のくくりにしてしまえ、といった投げやりな感じさえする。

しかも、話題になったビジネス書を数年追っかけてみればわかるが、じつはたいていの新刊はおもしろくない。そのほとんどが昔からあるビジネス書の焼き直しか、著者の思い込みの書き散らかしだ。私見だが、その9割は読むに値しない内容だと思う。
「話題の」といった店頭POPの押し文句も油断ならない。タイトルのつけ方に購買意欲をそそるような戦略的巧妙さがあるだけで、中身はまったく読むに値しないベストセラーも多い。

「ビジネス書」はその定義が節操ないだけでなく、なぜか熱心に読めば読むほど手が伸びなくなるという、不思議なジャンルなのだ。

ビジネス書の古典

ただすべてがクズではない。例えば、ビジネス書の中にも「古典」と呼べるような良書がある。それらがなぜ今でも多くの人に読まれているかと言えば、やっぱりとびきりおもしろいからだ。おもしろいと言われるものは、変化する時代の荒波にも打ち勝つエネルギーがある。そのうえ役に立つ。時代が移り変わっても、作品の主題は廃れるどころか益々輝きを放ち、今もって多くの人々の指針となっている。

もちろんこれ以外にもまだまだたくさんあるが、挙げたこれらは読んだ後、大げさでなく世界が違って見える。やっぱりどんなジャンルでも、増版を重ねて読み継がれてきたものはおもしろい。

古典はおもしろい。新刊はほとんどツマラナイ。
したがって、代表的な古典をひと通り巡ってしまったら、ビジネス書コーナには行かなくなってしまった。
ただ新刊の中にもおもしろいものはあるはずだ。それは評価が定まるまで待てば良い。時間を無駄遣いして宝探ししなくても良い。先に書いたように、本物には時代の変化を飛び越えるエネルギーがあるのだ。新刊の山に埋もれたホンモノは、数年も待てば、きちんと世の中が評価してくれる。

もっぱらぼくのビジネス書との関わり方は、時代の波を乗り越えて評価が定まった本を数年後に手に取る、というスタイルに落ち着くことになった。

今年読んだビジネス書

そんなことで、今年読んだビジネス書はほとんどが数年前に出版されたものだ。
ただ今でも、新書のコーナーはざっとのぞいてみたりするので、たまには気になるタイトルがあって新刊を手に取ることもあるのだ。
「ビジネス書」は節操ないが、なんとそれを読むぼくの信念も、さらに節操がなかったのだ!

野村克也「野村ノート」

野村ノート

野村ノート

ID野球実践編:データの取り方と使い方
ビジネス書を読む意義のひとつに、一流と呼ばれる人の考え方を家に居ながらにして聴くことができる、という点が挙がる。
野村監督は、言わずと知れたID野球の提唱者。現代のビジネスにおいても、データを駆使して次の戦略を立てることは当たり前になっているが、ただ集めたデータを並べて見た目が良い資料を作って満足している例も多い。

野球界で結果を出し続けた監督だから、まず、前提となるデータの取り方が恐ろしく緻密だ。そもそもどんなデータを取ればいいのか、きちんと自分の頭を使って考える。僕だって、いつも必死で考えながら仕事に取り組んでいるつもりだったのだが、それでも、ノムさんの半分くらいしか物事を見ていなかったことに気がつく。
肝心の、取ったデータを「結果に結びつける」点においても、ノムさんならではの視点がある。
まずその前提に「人」を置く。「人としてどう生きるのか」という部分をきちんと考えていかないと、データの使い方だって誤ってしまう、と説く。
データ自身が起点となって論理的な判断を下すのではない。切羽詰まった場面では、(すこし大げさだが)人は自分の生き方に基づいて決断を下す。その決断を下支えしているのが、系統だったデータなのである。

トレードマークのボヤキも健在。古田からは年賀状も来ないそうで、イジケた監督はちょっと可愛そう……。

物事を測る単位を増やす、記録する、相手の心理を読む、常に新しいやり方を模索する等々。リーダー、指導者、部下を持つ者、必読です。

楠木建「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」

人は物語に惹かれる
おもしろい!500頁があっという間だった。特に以前から疑問に思っていた「先進的なアイデアを持つ企業」が競合他社にまでオープンであるのはなぜなのか、その分析に目からウロコ。
確かにこの本などは、先に挙げたビジネス書の悪い点「著者の思い込み」に満ちているのだが、その思い込みを裏付ける調査と考察、そして何よりもまとめあげた熱意に心を動かされる。

最終章に“まとめ”として「骨法10カ条」があるのだが、この部分だけつまみ食いしても意味がない。本書のテーマでもある、全体を物語として楽しく読み進めないと答えには辿り着けない。よく出来ている。ガリバー創業者である羽鳥さんが社名に込めた思いを話すエピソードには鳥肌が立った。

先の「野村ノート」もそうだったが、データに基づいた分析はしていても、データ偏重主義ではない。
「情報(information)の豊かさは、注意(attention)の貧困をもたらす」……多くのデータを集めれば良いのではなく、本当に必要なデータをより多くの視点からながめることこそが大切なのだ。情報技術を用いることで、集めたデータを多角的・重層的に分析することが可能である。現代の強みはそこだ。

奥田透「世界でいちばん小さな三つ星料理店」

世界でいちばん小さな三つ星料理店

世界でいちばん小さな三つ星料理店

習慣から作られる人格
「野村ノート」でも、結果を出す要素として「人格」が挙げられていたが、その人格を造りあげるのが毎日の「習慣」だ。「銀座小十」店主、奥田透さん。読めばわかるが、この方の人格もまさに「習慣」の賜物だと思う。

料理人を志し、いくつかの名店で学び、ついに銀座に店を構えて三つ星を獲得……そういった表のサクセスストーリーよりも、むしろ徳島の「青柳」でホールを担当した3年間の描写がグッと迫ってくる。希望していたものとは違う役割を割り当てられた二十代、普通ならやる気をなくしそうなこの三年間を、腐らずやり遂げたところに、この人の価値があるのだと思う。
途中から読むスピードがぐんぐん上がって、後半は号泣だった。いつか銀座に食べに行こう。

デービッド・アトキンソン「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る」

日本人が気づかない視点
ここまで書いてきて気がついたが、昨年読んだビジネス書はそのほとんどが、多くのデータを集めてはいてもそれにとらわれることなく、結論は人間臭い内容のものが多かった。昨年末ギリギリで読み終わった本書もそのひとつ。

例えば日本人で、他国の人間をここまで辛辣にこき下ろす事が出来る人がいるだろうか。しかもその国の多くの人が良い事だと認識している事柄で。僕らはこれを、愛ある提言だとして聞かなければいけない。特に前半は面白い。アナリスト時代から年月をかけて練り上げてきたであろう考察であり、挙げられたデータや数字も明確だ。
ただ後半は「文化財を軸に観光立国を」との提言がまずひとり歩きしている感があり、挙げられた数字も無理して持ってきているようにも見える。古典建造物を修復する(自らの)仕事を通して、日本をなんとか元気にしたい、という気概は素晴らしいと思うが、思い入れが強すぎて、やや論点がボンヤリしたか。
何年か後で、より深く踏み込んだ具体的な考察が聴きたい。

資産運用に関する本

経済分析や、株などの資産運用に関する本、運用哲学を説いた本も定期的に読む。たまに思い出して、自分の知識を反芻することが目的だ。
ただビジネス書の中でも、特にこの手の本には「トンデモ本」が多いので、注意が必要だ。
ぼくはパラパラとめくってみて「具体的な数字が挙がっている」「調子の良すぎることは書いていない」「悪意ある悲観論で読者を不安にさせていない」「しかし今後の経済については、やや悲観寄りの見通しである」等々、いくつかの自分なりのチェックポイントと比較して選んでいる。特に「儲ける人は知っている『◯◯投資術』」てな感じの派手なタイトルの経済本が参考になった試しはないです(←過去にはしっかり読んでたってことですが……)
もしくは著者で選ぶ。山崎元さん、橘玲さん、竹川美奈子さんの本はどれもおすすめ。

昨年読んだ以下の数冊は、若干トンデモ臭がするものもあるが、それでも、つまめる点は抜き出してつまむ。
この貪欲さも、投資には必要な要素だ(……と、日々、自分に言い聞かせています……)

臆病者のための株入門 (文春新書)

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では次は、昨年のめりこんだ「映像・映画」編でも書きます。