つるつるの手帖

なにかおもしろいことないかなー

映画・映像制作|2014年に読んだ本

はじめに

昨年から、ちょっとした映像作品を作りをはじめた。
……とは言っても、たかだかおっさんの暇つぶし。出来は自らそれほど気にかけないつもりだったのだが、始めてみればこれが意外なほどおもしろく、うまく作りたい下心も芽生えてきたので、すこしずつ機材を揃えているところである。

映像制作がおもしろいのは、心に従う感覚的な要素と、理性でコントロールする身体的な要素を、行きつ戻りつ作っていくところだ。心で感じて決める……頭で考えて手を動かす……(以下、くりかえし)
これは素材作りの撮影の段階にも言えるし、仕上げの編集でも言える。映画を制作している人たちにしてみれば昔からわかりきったことなのだろうが、この感覚が素人でも味わえるなんて、技術の進歩に感謝したい気持ちだ。

心と理性。
映像作品はすべて、作り手の意図によって必ずそのどちらかが強めに出ていると思う。しかし時代を越えて残るような名作は、どちらかが強めに出てはいても、必ず反対側でもう一方の要素が全体を支えている。
例えば小津安二郎監督の映画は、画面の構図や俳優の言動、そのすべてが監督によって統制され、理性的な側面が強く出ているように思える作品であるが、物語から受ける印象と全体を貫くテーマは、情緒的で人間臭い。
転じて「男はつらいよ」は、表向きは下町を描いたただの娯楽作品だが、寅さんのキャラクター設定や、計画的なアナクロ主義とマンネリズムには、山田洋次の批判精神と緻密な計算が見え隠れする。

感覚に頼りきってしまえば、出来上がるものはひとりよがりのポエムのようになってしまうし、機材や技術に傾倒しすぎると、高級な機材を持ち歩いているのに肝心の作品はまったく面白味のないアマチュア写真家のようになってしまう。要は両者のバランスが大切なのだ。

心と理性は、感情と技術と言い換えても良い。
この両方を学びたくて、昨年は映画・映像について書かれた本を読んだ。「映画を観ること」「映像作品を作ること」「作り手側の視点」この3つの項目に分けて、感想を書く。

映画を観ること

映画を観ることは好きだが、それほど多くの映画を観ている訳ではない。面白いと評判の作品をいざ観始めても、作品を裏付ける前提が分かっていないため理解が回らず、期待したよりも楽しめないこともある。また、制作上の意図や技術を解説してもらえると、物語を追いかけて映画を観るときとは違った楽しみ方ができる。
そんな、映画を多角的に解説してくれる本があると助かるのだ。

ちなみにここで紹介する2冊を読んで、昨年、以下の映画をあらためて観てみた。

イージー★ライダー コレクターズ・エディション [DVD]
チャイナタウン 製作25周年記念版 [DVD]
フレンチ・コネクション [DVD]
麦秋 [DVD]
第3作 男はつらいよ フーテンの寅 HDリマスター版 [DVD]
2001年宇宙の旅 [DVD]
ロリータ [DVD]
バリーリンドン [DVD]

いずれも10〜20年ぶりに観直して、内容は忘れかけているものばかりだ。
解説を読んだことで、ぼくの理解が深まったかどうかは微妙だが、少なくとも筋書きを追っているだけの見方よりも楽しめたことは事実だ。

子供たちがまだ小さいこともあり、普段の生活で、ゆっくりと映画を観る時間をひねり出すことはことのほか難しいが、たとえ年間数本だとしても、いい映画にふれる機会をできるだけ作りたいと思う。

塩田明彦「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」

作り手の意識は、どこにフォーカスしているのか
男はつらいよ」の分析に膝を打つ。今までに読んだ、どんな寅さん評よりも腑に落ちた。「カサヴェテス病」にも笑ってしまった。現代のテレビドラマは、ほとんど全部がこれではないか。泣く物語として書かれ、宣伝され、泣く場面では演者も観客も皆が泣く……。感情をまき散らした俳優の演技には、いつも「ここで泣け!」「笑え!」と説得されている気分。人間の感情ってそんなに画一的かね?というモヤモヤがずっとあったが、「行動」と「感情」を対比させた本書「第7回」で、それが完璧に解説されていた。映画を観ながら、何べんでも読み返したくなった。

町山智浩「映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで」

時代の中の映画。映画の中の時代。
その時代を生きていなければ解らない肌感覚がある。60年代の若者が持つ「ドラッグ」に対する考え方は、現代のそれとは大きく違う。本書で取り上げられる「原発」「暴力」「異星人」「孤独」いずれにおいても、現代の解釈だけで映画を観てしまっては片手落ちだ。
そうした時代ならではの空気を紹介しながら映画の成り立ちを解説してくれる本書は、作品の背景を知るための恰好の手引となる。
知識を得たことで、以前はボンヤリとしたメッセージしか受け取れなかった数々の映画から、改めて何を受け取ることができるのか、自分に期待している。

映像作品を作ること

以下は、主に技術寄りの具体的な参考書である。機材の選択と使い方、制作上のセオリー、予算やスタッフの管理等含め、全体のマネジメントなどが解説されている。どれも、一度は目を通しておくべき内容。

最後に挙げた「シド・フィールドの脚本術」は、いずれ脚本や絵コンテから制作をはじめるときのために。

一人でもできる映画の撮り方

一人でもできる映画の撮り方

マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術

マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術

  • 作者: クリストファー・ケンワーシー,吉田俊太郎
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2011/05/26
  • メディア: 単行本
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素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2

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作り手側の視点

映画の見方を学び、撮影や編集のテクニックを覚える。……撮りはじめる前は、これらふたつについて学べば、実際の撮影で迷うことはないと思っていたのだが、実際に始めてみると、じつは最も参考になったのは、作り手の人間自身について書かれた本だった。中には作家自身の手で書かれたものもあるので、それを読めば作り手の視点が一番良くわかる。

想田和弘「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」

なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか (講談社現代新書)

なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか (講談社現代新書)

ドキュメンタリーは、本当に「筋書きのないドラマ」だった
映像作家の心境が丁寧に綴られていて、完成までの道のりを追体験できる。途中では「ここの感じ方はちょっと違うと思うなぁ」なんて、生意気にもいくらか分析的に読んでいたのだけど、本の終わりが近づくにつれ映画の完成とその内容の描写に興奮してきて、オイラの浅はかな分析なんて何処かに吹っ飛んだ。

小栗康平「映画を見る眼」

映画を見る眼

映画を見る眼

作り手の視点から映画を観る
最新のテクノロジーと、古くから在る手仕事、職人の視点と批評家の視点と作家の視点。近いようで実は相反する幾つもの事柄が、一人の人間の中に同時に存在する。いやぁ、映画監督ってつくづく面白い人種なんだなぁ。

ヴィンセント・ロブロット「映画監督 スタンリー・キューブリック

映画監督 スタンリー・キューブリック

映画監督 スタンリー・キューブリック

キューブリックの眼
淡々とした、なんの色気もない翻訳文だが、創作におけるキューブリックの視点や、彼の日常の生理がちゃんと伝わってくる内容だ。読みどころはやはり、実現しなかった「ナポレオン」を挟んだ「2001年宇宙の旅」から「シャイニング」までの制作期間が綴られた中間の数章。特に、次作のテーマを追い求めて色々な本を漁ったり、カメラやレンズの選択に妥協を許さないところに、キューブリックの性質が覗けて興味深かった。スタンリー・キューブリック、一番好きな映画監督だ。

佐々木昭一郎「創るということ」

創るということ

創るということ

「映像作家」佐々木昭一郎
この本のみ、今年(2015年)が明けてから読んだ本である。昨年末にNHK-BSで特集していたドキュメントを観て、20年ぶりに新作を作った映像作家「佐々木昭一郎」さんに興味を持った。
同時に放映された昔の作品をいくつか観たが、確かに心を大きく揺さぶるエネルギーがある。言葉にするのは難しいのだが、理解できないシーンも多いのに、作り手の意思がきちんとこちらの心の中に積み重なっていく不思議な作風なのだ。理解できないのに分かるなんて禅問答のようだが、これは作品を好きになるひとつの大きな要素だと思う。音楽や絵にも、こういう傾向のものがある。

ただ、一般ウケする作品とは言えないだろう。分かりやすいものの方が、世の中では受け入れられやすいのだ。
例えば近頃のJPOPファンは、「あなたに会えないから寂しい」といったような、極めて直接的な歌詞に共感するらしい。「理解できるから好きになる」至極まっとうに思えるこの意見だが、しかし、はじめから素直に理解できたものに、後々まで心に残る深さがあるだろうか?

音楽、小説、映画。中には、好きになってからずいぶん長い時間が経つのに、未だ惹きつけられ続けている作品も多い。それらは皆、理解を超えて感情に直接踏み込んでくる「何か」がある。つまり、わからないからこそ惹かれるのだ。
佐々木昭一郎作品はその典型である。挨拶もなしに上がり込んできたかと思えば、ニコッと笑いながら何かを言いかけ、やっぱり口をつぐんで裏口から出ていってしまった人のよう。
……あれは何だ???……でも気になる、って感じである。

佐々木さんが制作の裏側を語った本書の内容は、その作品と同じく「詩的で軽さもあるのに難解」だ(笑)この方は、やはり天才なのだ。

おわりに

次のテーマは何にしよう……。昨年読んだ本のリストを眺めながら考える。「第二次世界大戦」「キリスト教」あたりか。
どちらもまとめるのが難しそうなテーマだ。うまく書けるかな……。