つるつるの手帖

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アイデアのつくりかた|ジェームス W.ヤング

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※ 今回のエントリーは、以前書いていた「鶴の手帖」というブログの2013年12月18日の内容に、若干の修正を加えて転載した記事となります。

はじめに ー アイデアをひねり出せたらと思うすべての人に

イデアっていつでも取り出せるの?

「アイデア」で世界は変わっていきます。私たちの生活がこんなに便利になったことにしても、元をたどればすべて誰かがひねり出した「アイデア」の結果です。
「アイデア」の力で問題を解決していくことが、世の中に“インパクト”をもたらし、人類は技術や文化を前進させてきたのだと思います。

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

本書は、タイトルそのまま「アイデアのつくり方」を書いた本です。
帯に「60分で読めるけれど、一生あなたを離さない本」とあります。ごく薄い本で、確かにすぐ読み終わってしまいます。翻訳ならではの読みにくさはあるものの、平坦な言葉で書かれた本なので、読み終わっても「で、どうした?」と思われる方もいるでしょう。

原書の初版は1940年(昭和15年)の出版だそうです。古典と言っていいでしょうね。
著者ジェームス・W・ヤングは広告の世界の人であり、本書は主に広告の制作過程におけるアイデアの出し方について書かれています。
しかしそこに紹介されている技術はすべて、様々な分野での問題解決にも応用が効くことでしょう。「あなた」や「私」が、いま目の前にあるあれこれの問題に取り組むときにも「アイデアのつくり方」は力になってくれます。
本書には「アイデア」は作り出すにはその技術を身に付ければ良い、と書かれています。ほんの些細なことであっても、あなたがすでに何かしらの「アイデア」を作り出した経験をお持ちなら、発想することの入り口には立っているはず。それに加えて、ここぞという時に「アイデア」を自在に取り出したい、と思うのなら、ぜひ本書を手にとってみて下さい。

……すでに読み終わったけど内容にピンとこなかったなぁ、なんて人がもしいらしたら、メモを取りながらもう一度だけ読み返してみてほしいと思います。

はじめは、 アイデアの「質」は問わないことにしよう

ひょっとして「アイデア」なんて言葉を聞くと、なにかものスゴい決意が必要な気がして、尻込みしてしまう方もいるのかもしれません。でも、ちょっとやってみようかな、なんて感じた皆さんには、ぜひともその一歩を踏み出して欲しいのです。
著者も言っていますが、技術を身につけて生み出されたアイデアは、必ずしも最高のアイデアである必要はありません。本書で示されているのは、あくまで「アイデア」の出し方であり、決して「最高の」アイデアの出し方ではないのです。まずは質より量。気軽にはじめてみることだと思います。
もちろん手順を知ったからといって、あなたが現時点で持っている“能力”以上のアイデアが自然と湧き出てくるわけではありません。
ただし、技術を身につけ発想のサイクルを繰り返していくことで、ご自身で気づいていない潜在的なものまでを含めて、あなたが持つ能力を限界まで使い切ることはできるようになるはずです。また常日頃から、頭のなかにどのようなストックを残しておけば良いのかも、繰り返すことで自然と身につくでしょう。

イデアとは「組み合わせ」て「共通項をみつける」こと

もうひとつ。多くの人にとって「アイデア」とは、突然天から降りてきたり、一瞬のひらめきによって何もないところから生まれてくるようなイメージがあるのではないでしょうか。

しかし本書には「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書かれています。「ゼロから生み出す」なんて聞くと尻込みしてしまいますが、「組み合わせる」と聞くと、なんだか出来そうな気がしてきませんか?
また「新しい組み合わせを作り出す才能は、物事の関連性をみつけだす才能によって高められる」ともあります。
こちらは、洞察力のことを言っているのでしょう。大切なのは、まったく異なったように見える項目についても、それらに関連性をみいだすことで、そこから生まれるアイデアがある、ということです。
ニュートンがリンゴの木の下で万有引力の法則をひらめいたり、エレベーターの中で特殊相対性理論のアイデアを思いついたアインシュタインの話を、みなさんも聞いたことがあるでしょう。理屈が解明される前に、目の前の現象と彼らの思考の間に関連はなかったはずですが、それらが彼らの頭の中で組み合わさったのです。このように、関連性のない事柄の中に共通項をみつけだす粘り強さこそが、新しい組み合わせを生み出す基(もと)となるのです。

以上ふたつの項目は、本書の核心の部分です。


では本書に書かれた「アイデア」を出すための、5つの手順を挙げます。原文は少しわかりにくいので、私なりに言い方を変え、補足で説明を入れてみましたが、この5項目は「アイデアのつくり方」の手順そのものであるため、できればここでブラウザを閉じ、原書の方を読んでほしいと思います。

そして本に分かりにくい部分があれば、再びこのエントリーを開いてみて下さい。


「アイデアのつくり方」における5つの段階(ネタバレを含みます)

原書では各段階をさらに噛み砕き、シャーロック・ホームズがひらめきを得るまでの過程を例に、実際が述べられます。ここでも5つの項目についてそれぞれ説明を補足し、挙げてみます。

1. 要素を集める

要素(資料)には、 特殊資料と一般的資料があるとのこと。それらふたつの説明部分を引用しつつ、解説してみます。

  • 特殊資料

取り掛かっている問題そのものに関する資料です。ただし、その収集の多くは粘り強さが足りないとして、著者は以下の文章を引用しています。

モーパッサンの勉強法 <パリの街角に出て行く>
街角で一人のタクシー運転手を捕まえる。最初その男は他の運転手と比較して、どこも変わらないように見える。しかし君の描写によって、この男が世界中の他のどの運転手とも違う、ただ一人の独自の人物に見えるようになるまで、この男を研究せよ。

  • 一般的資料

ありとあらゆる分野にその興味を広げ、好奇心を持ってそれらの資料を貪ることを「一般的資料を集める」と言っています。つまりは特殊資料以外にも、興味があること、巷で話題になっていることなど、多種多様な事柄について、常日頃から調べ尽くす癖をつけることです。

(広告の)アイデアは(製品と消費者に関する)特殊知識と、人生とこの世の種々様々な出来事についての一般的知識との新しい組み合わせから生まれてくる。

2. 集まった要素について考える

要素が出揃ったら、それらを書き出すことで自身のフィルターを通してみる段階が必要です。本書ではシャーロック・ホームズが、スクラップブックに書きためた半端な形の項目を、何度も索引分類する場面が紹介されています。
他にも、小さなカードにアイデアを書き留め、それらの項目を広げてみるのも良い方法だそうです。これなども、「カード」という道具に目が行きがちですが、自ら手を動かして「書く」という行為に、考えるべきポイントがあるように思います。まさに私自身がこのブログを通して感じることなのですが、書くことには、「気付き」を得たり「整理」できたりする効果があるのです。

3. 取り組んでいた問題を、一旦放棄する

ここで一度、考えるのを止める勇気を持ちましょう。ひとまず忘れるのです。自らの無意識の部分に問題を移動させ、眠っている間にそれが勝手に働きだすのにまかせておくことです。
ただし、そのように問題を一旦放棄したとしても、無意識の創造過程が必ず働いてくれるという保証はどこにもありません。
しかし、私たちが意識的にできることが何もないわけでもありません。ひとつだけできることがあります。
何か「別のことを行う」ことです。
ホームズは思考がこの段階に入った時点で、よくワトソン氏を連れ出して音楽会などに出かけます。ワトソン氏には不可解にしか思えなかったこの謎の行動にも、このような意味があったのです。

4. いかなる時も、それについて考えぬく。「ひらめき」を待つ

ひとつ前の項目と矛盾してしまいますが、無意識のレベルに置いた問題を「完全に」放り出してしまって良いのではありません。むしろ片時も忘れずに、頭の片隅に留めておくことです。ニュートンアインシュタインの頭の中に「ひらめき」が降りてきたのは、それぞれリンゴの木の下とエレベーターの中だったことを思い出してみて下さい。
本書ではこの瞬間を「ユーレカ!」という言葉で表現しています。古典ギリシャ語で「私は見つけた」「分かったぞ」「解けた」というような意味だそうです。
「ユーレカ!」は、前触れなく不意に訪れます。アイデアマンと呼ばれる人たちが、よくメモを持ち歩いている理由はここにあったのですね。

5. 浮かんだアイデアを現実の世界に連れ出す

最後に、浮かんだアイデアを厳しい現実に連れ出してあげなければなりません。種を見つけたら、植える場所を探し、穴を掘って種を植え、水や肥料を欠かさないようにして、はじめて植物は成長していくのです。本書にもありますが、この段階で失われるアイデアが、もっとも多いそうです。
中には、翌日改めた時に最初ほど良いとは思えなくなっているアイデアもあるでしょう。人に話してみたら、さほど評価してもらえなかったり批判されたりして、くじけてしまいそうになることもあるかもしれません。
しかし本書には、そのいずれも、アイデア出しには必要なことだと書かれています。この部分は特に大切なことなので、少し長いですが抜き出してみましょう。

この段階において諸君は生まれたばかりの可愛いアイデアをこの現実の世界の中に連れ出さねばならない。(中略)
多くの良いアイデアが陽の目を見ずに失われていくのはここにおいてである(中略)しかしアイデアをこのあくせく忙しい世の中で生かしたいのなら、これは絶対にしなければならないことなのである。
この段階までやってきて自分のアイデアを胸の底にしまいこんでしまうような誤は犯さないようにして頂きたい。理解ある人々の批判を仰ぐことである。
(中略)良いアイデアはそれをみる人々を刺激するので、その人々がこのアイデアに手をかしてくれるのだ。(以下略)


まとめ

「アイデア」を出す手順は、以上5つです。
いかがでしょう。たったこれだけ……?あまりに単純すぎて拍子抜けしましたか?

しかし、これが「アイデア」を出すための、最もパワフルで具体的な手順なのです。簡単だからと言って馬鹿にせず、もう一度読み返してみて下さい。この手順を実践することで、あなたも「アイデア」を形にできるようになると思います。

また、すぐに身につかなくとも、諦めないで続けてみて下さい。ジェームス・W・ヤングはこうも言っています。

この目的のために心を使うには一つの技術があるということ、アイデア作成にはつねにこの技術が意識的あるいは無意識的に用いられているということ、またこの技術は意識して修練でき、それによってアイデアを作りだす能力は高められる、ということである

そうです、もし躰の中に発想の種があるのなら、“私”にも、“あなた”にも「アイデア」を出すための技術は身につけられるし上達する、と彼は言っているのです。


……あとは実践あるのみ。

私自身が「アイデアのつくり方」を初めて読んだのは、今から10年ほど前のことになりますが、私もそこから「アイデア」を出すのが少し得意になりました。
それらは「最高」のアイデアとは言えなかったかもしれませんが、少なくとも私の目の前に広がった問題を解決する“インパクト”は持っていました。

この「アイデアを出す」技術によって、私自身にも数々の変化が訪れたことは、間違いありません。

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