あるヨギの自叙伝 |パラマハンサ・ヨガナンダ
- 作者: パラマハンサ・ヨガナンダ
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 1983/09/01
- メディア: ハードカバー
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ジョブズの愛読書
先のエントリーでは「スティーブ・ジョブズ I」「スティーブ・ジョブズ II」を取り上げましたが、その下巻で、ハワイに行くジョブズのiPad2に、唯一ダウンロードされていた本である、と紹介されていたので、この「あるヨギの自叙伝」も読んでみました。
ジョブズはこの本を毎年、読み返していたそうです。書名だけは聞いたことがありましたが、今回初めて読みました。不思議な本です。
著者であるパラマハンサ・ヨガナンダ(1893-1952)は、現代インドの聖人であり、東洋の叡智であるヨガを西洋に初めて伝えた伝道師だそうです。師の導きに従い、後年はアメリカに渡りました。若き日のジョブズはインド哲学に傾倒していて、この本はそのころ読み始めたようです。キリストのような聖人が自ら書き下ろした書物という意味でも、貴重な記録です。
「スティーブ・ジョブズ I」「スティーブ・ジョブズ II」によると、ジョブズは、自身がアナログとデジタルの境界線に立っていることを強く意識していたようですが、そこにはこのパラマハンサ・ヨガナンダが、東洋と西洋の間に立っていた人物だったことの影響もあったのでしょうか。
宗教家が書いた本、というととても堅い本のように思えますが、じつは、これがかなり面白い。
要約すれば、パラマハンサ・ヨガナンダの成長の記録なのですが、そこに現れる聖人たちが起こす、数々の超常現象の面白さは、まるでエンターテイメント映画を観ているようです。
若いころのパラマハンサ・ヨガナンダ自身の描写は、とてもお茶目です。彼自身の言葉を信ずれば、学校の勉強もそれほど出来た方ではないようです。
なんといっても、宗教にかぶれ、勉強をおろそかにしていた大学時代のあだ名が「気違い坊主(きちがいぼうず)」なのですから!!また、若いころの彼は、我を押し通そうとしたり、周囲に流されることも多く、師から叱られるエピソードも数多く書かれています。
しかし、自身の宗教的な才能に早くから気付き、世俗的な生活を送りつつも、師に学び、自分の心と対話することを通して、世の中を動かしている真理を追い求めます。
なぜこの本を読み返していたのか?
唯物主義を批判し、心の在り方を説いたこの本を、世界一のテクノロジー企業のトップが気持ちの拠り所にしていたとは、ちょっと信じられない。しかし普通に理解しようとしたら、それは信じられないのですが、Appleの製品の素晴らしさを知っている人には伝わるでしょう。この本に書いてあることは、どこをどうとってもジョブズらしいのです。
例えば、真理を追求することと、シンプルさを追い求めることは、根底において同じです。つまり、どちらも「これは何か?なんのためにあるのか?」ということを、ひたすら考え続ける哲学的な作業だからです。
インドからの影響を受けたジョブズが作り上げたAppleの設計思想の根本には、物事の本質を見極めたい、という欲求を感じます。
私がMacに初めて触れた当時から、Apple製品にはほとんど説明書らしきものが付いてきませんでした。*1説明が要らない、という事は、物事の本質に近いところにそれが存在している、ということになります。
「伝える」とは
とても本質的な、人とモノのコミュニケーションの話をしましょう。
例えば、手に持ったグラスを落とせば、それは割れます。我々は行動に移さなくとも結果を知っているため、落とさないように気をつけます。実際にやってみる前からなぜ、地面に落とせば割れるということが、私たちには分かるのでしょう?
ひとつには、我々は常に重力を感じながら生きているため、重さのあるものは手を離せば落ちるということを、感覚的に知っているからです。またグラスを持った感触と過去の経験を比較することで、これはガラスだ、割れやすいのだ、という情報を事前に知っているというのも、その理由です。
しかし、この情報にはランクがあります。
重力の場合、誰かから教えてもらわずとも、人生の早い段階の経験で身に付けることが出来ますが、ガラスは割れる、という情報は、各々の知識に頼らねばなりません。ガラスが割れることを知らない小さな子供は、時に手を離してしまうこともあるわけです。
しかし、その「割れる」ということが、ほとんどの人が成長の過程で学べる知識であるのなら、それはまた「落ちる」と同じように、言葉で書かずとも伝えることができる情報と成りうるわけです。
グラスをガラス製にすることで、ユーザーの行動を、ある程度コントロールできるのです。
これこそが、物事の本質を探し当て、それを(デザインを含めた)言葉ではない何かで伝える、ということです。
Macが広めたデスクトップという概念、あれはまさに、この力を利用しています。*2
伝わらないものと伝わるもの
ごくまれに遭遇する、押すのか引くのかを間違えてしまうようなドアーは、この部分の思考がなされていないのですね。他にも、一般的に「おしゃれ」「デザイン的」と呼ばれている道具の中にも、意外と多くのおかしなものが見つかります。持つ方向をいつも間違えてしまうキッチン用具、急いでいるときに限ってサイズや種類を間違えてしまう工具。みなさんの身近にもあるはずです。
そうそう、すこし本筋からは外れますが、「画面はハメコミ合成です」という但し書きを必要としないような、もっと洗練されたコミュニケーションの方法は、存在しないのでしょうか?
また、Macとよく似た見た目の某ソフトウェア会社が作った某OS、誰かに尋ねないで辿りつけた機能って、いくつくらいありましたか?
気をつけて観察してみると、素晴らしいものは意外と少ないのです。
しかし本当に素晴らしいモノと出会った時の、自分だけが発見できたような感覚は、何ものにも代えがたい喜びです。
- アイクラー・ホームズの家
- ディーター・ラムスによるブラウンの電化製品
- ポルシェのデザイン
- 良くできた和食器、日本の古い建築物
- ポール・ランドに依頼したNeXTのロゴデザイン
ジョブズが好きだったこれらのデザインは、すべてこの「説明しなくとも伝わる」という要点を満たしています。
ここで、『スティーブ・ジョブズ Ⅰ』第12章から印象的な部分を引用しておきます。
「洗練を突きつめると簡潔になる」
デザインをシンプルにする根本は、製品を直感的に使いやすくすることだとジョブズは考えた。両者は必ずしも両立しない。デザインは流麗でシンプルなのに、使うのが怖く感じたり、なにをどうしたらいいのかよくわからなかったりという場合もある(中略)
「我々がデザインの主眼に据えていますのは、“直感的に物事がわかるようにする”です」
iPhone 5s & 5c
最後に『スティーブ・ジョブズ Ⅰ & Ⅱ』と『あるヨギの自叙伝』を読んで感じたことを踏まえ、発売されたばかりの新しいiPhoneの感想をすこし。今まで書いてきたこの生地のテーマのひとつ「シンプルであること」という観点から、今回のiPhoneを捉えた場合、ちょっと気になることがあります。
先のエントリーにも挙げましたが、ジョナサン・アイブが説明するiPhone5cの説明ビデオと、近々アップデートされるiOS7の画面をご覧になりましたか?
私が感じたところでは、現時点でのジョナサン・アイブは、ハードウェアとソフトウェアのシームレスな融合という意味では、プラスチック製の5cの方が完成形だと言っているように見えます。
主に見た目の話になるのですが、iOS7のフラットデザインは、完全にiPhone5cありきです。もし、画面の中のフラットデザインのアイコンに、実際触れることができたとしたら、それはきっとプラスチックの感触に近いでしょう。
ビデオで説明するジョニーの情熱も半端ない。もしかして、今までで一番力が入っているのではないでしょうか。
片やジョブズが作り上げたiPhoneの延長線上にあるのは、アルミニウム製の5sなのですが、こちらはハードウェア的な技術改良にとどまっています。概念を根底からくつがえすような変化はない。このことから今のジョニーは、プラスチックの方が本質的にクールだと考えているようにも受け取れます。
ジョブズは製品のラインナップが複雑になることを、良しとしませんでした。
本命が5cなのだとしたら、5cに統一する選択もあったと思うのですが、ポリカーボネートからアルミに進化したiPhoneの素材を元に戻すことは、市場に退化とも受け取られかねない。そこで両方を残した製品ラインナップにしたわけです。
見た目以外の両者の差が分かりにくい上に、種類は増えて複雑になってしまいましたが、それらを必然だと思ってもらうための努力として、先のビデオのジョニーの一生懸命さがあるわけです。
ここからのApple
……あれ?説明を必要としないのが、Appleの持ち味ではなかったのですか?
今回、Appleという企業が下したその決断に、ほんのわずかですが、ブレを感じてしまいました。Apple自身の不安さが現れてしまっています。
私自身、すでにショップに行って、5sの方を予約してしまったのですが、ひとつずつ検証していくと、このような結果になる。……では、5cにすれば良かったのか。
前回のエントリーの主張を繰り返すことになりますが、選択肢が増えることは必ずしも幸せなことではなく、このように決断の迷いを生むことにもなります。
……私の言っていることが、正しいのかそうでないのか、先のことは誰にも分からない……これからも、Appleは今までのように私たちをワクワクさせてくれるのでしょうか。
私はミーハーなAppleファンだから、いつまでもAppleには革新的な企業であって欲しい。
最後は、あの" Think different(シンク・ディファレント)" キャンペーンの有名なCM「クレイジーな人たちがいる」の映像のリンクを貼っておきましょう。
このCM、アインシュタインやディランやジョン・レノン、ガンジー、バックミンスター・フラーは登場させても、フォン・ノイマンやマイケル・ジャクソンやカール・ルイスを登場させてない、ってとこにジョブズの強い意思を感じます。
Appleの伝説のCM『クレイジーな人達がいる』 - YouTube
Steve Jobs Ⅰ & Ⅱ|ウォルター・アイザックソン - つるつるの手帖
- 作者: パラマハンサ・ヨガナンダ
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- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
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- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
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