つるつるの手帖

なにかおもしろいことないかなー

『ビル・カニンガム&ニューヨーク』と「未来の働き方」

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※ 今回のエントリーは、以前書いていた「鶴の手帖」というブログの2013年7月27日の内容に、若干の修正を加えて転載した記事となります。

『未来の働き方を考えよう』を読んだ

未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる

未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる

ちきりんさんの『未来の働き方を考えよう』を読んで、自分の未来の働き方が気になりだしました。
その後、映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を観て、理想とする未来の働き方が少し見えてきたような気がします。

たぶん僕は「働く」ってこと自体が好きなんだと思う。
現在の仕事に全面的に満足しているわけではないですが、充実した毎日です。動きまわり、よくしゃべるからでしょうか、「あなたって、仕事が好きなんでしょ?」と聞かれることもある。
でも、今の仕事を楽しむのと同時に、もっと楽しい働き方はないだろうか、ってことだって、いつも考えています。

『未来の働き方を考えよう』からは、色々なヒントをもらったのですが、同時に不安も感じました。ちきりんさんはこの中で、40歳くらいで今の仕事を一旦リセットし、今までとは違った仕事を選択してみたらどうだろう?と、提案されています。本書のテーマであり、すごく良いアイディアだと思う。しかし、内容に共感はしましたが、読んだからといって、未来の働き方が具体的に見えてきた訳ではなく、そこに不安の原因があるわけです。

今までにやってきた仕事を振り返ってみたときに、歩いてきた道のりに自信や充実感はあるけれど、それはそれ。40歳を越えた今、もう一度価値観や判断の基準を見直す時期に来ていると感じています。

ビル・カニンガム&ニューヨーク

(※ 内容に踏み込んで書いた部分があるため、多少のネタバレが含まれます)

ビル・カニンガム&ニューヨーク [DVD]

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そんな矢先、ネットである映画の評判を読みました。『 ビル・カニンガム&ニューヨーク 』というドキュメンタリー映画です。
予告編を観てみたら、主人公のビル・カニンガムさんは、かなりのご高齢であるが、いつも自転車で動きまわっていて、笑顔がとびきり素晴らしい。ぜひ本編を観てみたいと思いました。
著名人による映画宣伝のためのコメントには、正直しらけてしまうことも多いのですが、ビルさんを称賛するVOGUEの名物編集長、アナ・ウィンターの言葉には共感を覚えました。ストリートファッションに対する彼の目利きの確かさと人間的な魅力、仕事に取り組む姿勢に、最大の敬意を払っています。


『ビル・カニンガム&ニューヨーク』 予告篇 - YouTube

なるほど、ビルさんは仕事が大好きなようだ。彼のやっていること、話していることは、今しっかりと見ておくべきだろう。
足を運んだのは、浜松市田町のミニシアター『浜松シネマ・イーラ
たいした前振りもなく映画が始まりました。唐突に始まるところが逆に、ドキュメントとして誠実な作りに思えます。

主人公のビル・カニンガムさんは、1929年生まれだそうですから今年で84歳(映画は2010年の作品であり、ここでの彼は82歳)ニューヨークのストリートファッションのスナップを50年にわたって撮り続けているそうです。
ファッションが大好きで、その世界では一目置かれている彼なのに、普段のユニフォームはどこにでも売っているような青い作業着。雨の日には、自分で補修しながら着続けている雨合羽を羽織ります。毎日、愛用するシュウインの自転車に乗って街に出、個性的なファッションに身を包んだ人々をカメラで撮影します。
彼は今でも毎日が忙しく、仕事が一番楽しいと言う。自転車で、渋滞の隙間をスイスイと走り抜けるさまにはびっくりしてしまいますが、そのパワフルな仕事ぶりは、とても80代には見えません。
撮った写真は、共通するテーマを持ってニューヨーク・タイムズ紙のコラムにまとめられます。コラムは写真中心のもので、予告編にもありますが、「みな、彼のため(ビルに写真を撮られるため)に服を着る」とアナ・ウィンターに言わせてしまいます。

仕事をしている彼の笑顔は、なぜあんなに素敵なのか?
映画を観ている間中ずっと気になっていたのですが、これからの働き方を考える上で、是非とも参考にしたい部分です。

この作品は、準備に10年を要したそうです。そのうち、表には出たがらないビルさんの説得に8年を費やしたそう。この話からも既にビルさんの人柄が伝わってくるようですが、どうしたら彼のように、80歳を越えてまで楽しく仕事に取り組めるのでしょう?

80歳を越えても楽しく仕事をするためには

ぼくも、ビルさんのように80歳まで楽しく仕事をしていたい。映画を観て、感じたことを6つにまとめてみました。

1. 大好きなことに取り組んでいること

まずはこれが原則だと思います。しかし僕を含め、大好きなことが明確になっていない人も多いと思います。まずは自分の内面と対話して、大好きなことを明らかにする必要があります。ひとつかふたつに絞り込む作業も必要です。

2. ある程度の専門性があること

自身をコモディティ化させないためには「大好き」だけでは足りないようです。ビルの場合、直感で撮りまくった写真の中に、時代の秩序と呼べるような共通項を見つけ、それを再構成してコラムにまとめる『編集する能力』が高いのだと思います。

3. 気に入ってくれる人が一定数いること

ビルにはファンがいます。コラムのファンもいますし、フォトグラファーとしての技量や、ビルという人間のファンもいます。より多くのファンがいれば、そこから生まれる需要もあります。

4. 金銭的な報酬以外の動機付けができること

ファンの中から需要が生まれる、と言いつつも、それが直接的な収入に結び付かない(結び付けない)場合もあります。事実、ビル自身は連載するコラムからの報酬は受け取らないようです。仕事の報酬は次の仕事、という言葉もありますが、ビルもまた、動機はお金以外にあるのです。

5. プライベートな部分を、経済的にコンパクトにまとめていること

好きなこと、やりたいことを明確にするのと同時に、やらないこともはっきりとしています。普段の生活は住む場所も含めて極めて質素、ファッション以外、食べることなどにもまったく興味は無いそう。例えば、ファッション関係の集まりに出向いても、そこでは飲み物、食べ物を口にしません。パーティーに参加はすれど、彼の目的はその部分ではないのです。

6. 生活の中に、体力を維持する工夫があること

やはり体が資本です。やりたいことがあっても体力が追いつかなければ成果に結び付けられません。ビルの移動手段が自転車なのも、ひょっとしたらこの辺が理由なのかも知れません。


……ビルはしばしば笑いながら、自分自身を「頭がおかしい人」であると、自虐的に評します。確かに、世の中の常識からは外れているようにも思えますが、いやいや、おかしいのは我々のほうかもしれない。

例えば彼はお金では動きません。報酬は受け取らない。お金を受け取ったら、くれた人の言うことを聞かないといけないが、それよりも自由を選択する、と言う。この、金銭よりも自由を優先する、というのは、ビルが自分自身で決めた価値観です。
僕を含め多くの人は「仕事をしたら、それ相応の金銭的な対価を求める。生活していくためには当然のことだ」という考え方に基いて、日々を生きています。たぶんそれは、周りの皆もそうしているからだし、その価値観に何の疑問も持たなかったからです。

でも改めて考えてみたら、これって自分で考えて作り上げたものじゃない。
ビルと僕の価値観の成り立ち、自分で決めたか、既成の考え方を取り入れただけか……ここには大きな開きがある。

印象的だったエピソード

また、昔の出来事として描かれていた、こんなエピソードが印象的でした。

あるときビルは、ファッションショーで発表された洋服を、実際に普通の人が街でどう着こなしているのか?という切り口で写真を撮りました。ブランド服を着こなすモデルの写真と、それと同じ服を着た一般人のストリートスナップを、横に並べて構成したのです。
ビルの目的は、一般の人の着こなしを賛美することでした。ファッションの本質は権威ではない、というようなメッセージが込められていたと思います。どちらかと言えば、モデルの方を皮肉るような(でも決してこき下ろしていた訳ではない)内容でした。

しかし出版社はビルの意図とは無関係なコピーに入れ替え、『あの素晴らしい服が、ストリートでは、こんな惨めな着こなしになってしまう』といった構成に改変してしまいました。
この時、ビルさんはひどく動揺したそうです。写真に映る一般の人々が傷ついていないか、とても気にしていたとか。その後、この出版社とは仕事をしなくなったそうです。

これがビルさんの生き方の本質なのでしょう。先にまとめたような、仕事を楽しむための姿勢も、こうした辛い経験を経由したものであるから、我々に訴えてくるものがあるのだと思います。

好きになれなかったシーン

ただひとつだけ、作品の最後のセンテンスで、ビルさんに少し意地悪な質問をした部分が、個人的は好きになれませんでした。遠回しでしたが、インタビュアーが恋愛と宗教について質問したのです。恋愛の質問に彼は少し困ったような顔を覗かせ、次の質問、宗教ーー特に日曜日の礼拝について聞かれたときには、絶句されてしまいました。
質問者は、彼のセクシャリティと、内面でその志向とどう向き合ってきたのか、という部分に触れたわけです。

しかし、映画を観ていた人なら、そこはあえて取りあげなくても気づくこと。
この質問に答えるビルさんの表情を、作品の締めのハイライトとして盛り込んだのは、ただ下世話な興味からのように思え、あまりよい趣味でないように感じました。

ファッションカメラマン「ビル・カニンガム」

しかし、全編を通して本作は、ビル・カニンガムという生きる伝説にスポットを当てた、素晴らしいドキュメンタリー作品でした。

最後のシーンはまた、普段のビルらしく、ストリートで写真を撮りまくる映像でしたが、そこで流れた、ニコとヴェルヴェッツの『I'll be your Mirror』もニューヨークらしくて良かった。

ファッションに興味があってもなくても、これからの働き方を考える観点からも、映画『 ビル・カニンガム&ニューヨーク 』は、面白い作品だと思います。


The Velvet Underground & Nico - I'll Be Your ...

未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる

未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる

調べる技術・書く技術|野村進

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※ 今回のエントリーは、以前書いていた「鶴の手帖」というブログの2013年11月6日の内容に、若干の修正を加えて転載した記事となります。

読みやすく、内容がきちんとと伝わる文章を書くのって、難しい

少し前から、書く練習をしています。
経験したこと、その経験を通じて感じたことなどを、分かりやすい文章に残したいと思っており、このブログを更新するのもその一環なのですが、未だ納得いくものが書けず悪戦苦闘しています。

ここ数年は本を読む習慣も途切れていたのですが、やはり上手い文章を読むことが上達への道だと思い、近ごろは文章が上手いと言われる作家の作品を中心に、小説やエッセイを読んでいます。また、書く技術についての指南書も、評判が良い物があれば手に取るようにしています。この半年くらいで読んだものの中では、次の三冊が勉強になりました。

井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)

文章の書き方 (岩波新書)

文章のみがき方 (岩波新書)

そして、最近読み終えたノンフィクションライターの野村進さんの「調べる技術・書く技術」という新書が、この三冊に匹敵するような素晴らしい本だったので、今回はその内容を紹介したいと思います。

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)

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先の三冊は、主に書き始めてからの心構えや言葉の使い方について説明されておりましたが、この「調べる技術・書く技術」は、ノンフィクションを書くための手ほどきという性格上、書く前の準備や、情報を整理する方法の解説に重点が置かれています。

なぜ書くのか、書きはじめたらどうなったか

そもそも私が書くことに挑戦しはじめたのは、自分で書いた文章を読み返したときに、そのあまりの分かりにくさに自分が情けなくなったからでした。名文は書けなくとも、正しく読みやすい文章を書いてみたい。
ところがいざ腰を据えてやりだしてみると、書くことによる別の効果が見えてきたりして、このところ面白く感じています。

例えばこんな発見がありました。まとまった文章を書くためには、事前の準備が欠かせません。
メモを仕分けたり、事実関係を調べたり、一度書いた文章を削ったり……。書くための準備ひとつひとつに手間をかけた上で文章をまとめてみると、頭の中が整理されてすっきりとします。私の場合、それがなぜか心の平穏を保つことにつながっているようなのです。こんなことは、はじめる前には思いつきもしませんでした。
ただ、こうした作業を毎日休みなく続けることは難しく、たまにこうして書き上げることが出来た文章も、後で読み返してみると、思っている以上に分かりにくい部分が多い。なかなか上達が実感できません。
最近はネットを使って、書くための材料を簡単に集めることもできますが、そうした情報をつなぎあわせてみても、文章に深みが感じられません。また準備が足りないまま無理に書き進めても、納得いく仕上がりにはなりませんでした。私の文章には、書く以前の準備や作り込みが欠けているのだと思います。
「誰にでも理解してもらえるような、正確で簡潔な文章を書くのは、とても大変なことなのだなぁ」と、改めて感じます。


そう思っていた矢先「調べる技術・書く技術」に出会いました。
テーマの設定に始まって、媒体に応じた資料の集め方、人に会って話を聞く方法など、書く前の段取りの技術やマナーが惜しげもなく綴られ、ライターを目指しているわけではない私のような人間にとっても、文章を書く上で参考にしたいノウハウが詰まっていました。
また、他人になにかを依頼する際の心構えやマナーを説明する件は、新入社員の研修資料にしたいほどの内容で、野村進さんの実直さや、きめ細やかな心配りまでが一体となって伝わってきます。プロの記者というものは、こんなに相手のことを考えて取材するのか、と感銘を受けました。

また本書の最後の方では、実際に発表されたノンフィクション3編を題材として、それを書くためにどういう準備をしたのかが克明に綴られた3つの章があり、これがとびきり面白い!
題材となったノンフィクション本編もそれぞれに内容も深く面白いのですが、それらを書くための取材の様子は、たいへん興味深いものでした。この3つの章を読むだけでも、この本はおすすめです。
章と本編のタイトルを並べただけでもその面白さの片鱗が伺えるので、それらを書き写しておきます。

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第六章 人物を書くAERA『現代の肖像』」掲載
歌舞伎俳優 市川笑也の人物ノンフィクション「大部屋育ちの『玉三郎二世』」

第七章 事件を書く「現代」掲載
事件ノンフィクション「五人の少女はなぜ飛び降りたか」

第八章 体験を書く「介護&ケアマガジン『VIVO』」掲載
連載企画 ナースにチャレンジ「難病の病棟で垣間見た 患者さんとナース、それぞれが乗り越える“葛藤”」

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印象的な文章の抜粋

では、以下に「調べる技術・書く技術」の中で印象に残った部分と、その感想をを書いてみます。

第一章「テーマを決める」
p.15 チャップリンのステッキ

かつて「週刊朝日」の名編集長として一時代を築いた扇谷正造が “喜劇王” チャールズ・チャップリンの独創性を次のように評したことがある。
チャップリンの笑いは喜劇映画に革命をもたらしたと言われるが、道具立てはすべて使い古されたものばかりであった。有名な山高帽にしても、誇張したメーキャップや付け髭にしても、だぶだぶのズボンにしても、それにあのドタ靴だって、従来の喜劇でお馴染みの代物に過ぎなかった。だが、チャップリンが違っていたところが、ひとつだけある。それは、ステッキを取り入れたことだ。あの一本のステッキこそ、山高帽や付け髭やドタ靴に統一感を与え、いままで見たこともないコメディアンが出現したと観客に印象づけたというのである。
テーマを決めるときには、この「チャップリンのステッキ」を見つけさえすればよい。
本来の意味での「独創」ではないけれど、それまでのくすんでいた色合いががらりと変わって、鮮やかな印象をもたらすだろう。読者の側には、それが「独創」と受け取られるのである。

チャップリンのステッキ。ごく稀に、別段変わった話題を取り上げているわけでもないのに、非常に面白い視点から物事をとらえていて、読んでいて膝を打つような文章に出会うことがあります。これなどは典型的なチャップリンのステッキの魔法がかけられた文章なのではないでしょうか。結びつけるそれぞれは、出来るだけ遠いところから持って来たほうが、より新鮮なテーマとなりそうです。

第四章「話を聞く」
p.110 (4) インタビューのあとで

かくしてインタビューは終了した。あなたは取材ノートを閉じ、録音機器の停止ボタンを押す。
ところが、本当の取材はここから始まるのだ。
約束したインタビューの時間を終え、先方は心の中で安堵のため息をつくか、余計なことをしゃべりすぎたと臍をかんでいるか、いずれにせよ緊張がいくらかはゆるんでいる。
そのときなのである。インタビュー中には語られなかった本音が洩れるのは。
それを聞き逃してはならない。さりげなく(あくまでもさりげなく)話を深めていく。
私の経験では、取材ノートを閉じてから会話がさらに一時間以上も続くようなら、その取材は間違いなく成功裏に終わる。このときには前述した「丸暗記取材」に頼るほかはないのだが、取材の醍醐味をもっとも感じるのは、こうした機会に巡り合ったときだ。

▲ 話を聞くための技術を論じた部分ですが、このノウハウは他の分野でも活かせるのではないでしょうか。ありきたりの感想になりますが、最後まで粘り強く行うことは、あらゆる場面で大切です。あとひと押しが粘れないまま、脱落していってしまう人にもしばしば遭遇します。また、ある経営者は著書の中で「もうダメだ、終わりだ、というところが本当のスタートだ」と言っています。そう言えば「残り物には福がある」なんて格言もありますね。

第五章「原稿を書く」
p.127 ペン・シャープナー

さあ、原稿を書く準備は整った。いざデスクに向かおう。
と言いたいところだが、なかなかそうはいかない(中略)
原稿を書くという一点に神経を集中させるのは、プロでもたやすくないことなのだ。
(中略)
もうひとつ集中の儀式に役立つ材料に、「ペン・シャープナー」というものがある。
英語で記すと、pen-sharpener、つまりペン先を鋭くさせるものという意味である。
いったい何のことかと思われるだろうが、ペン・シャープナーとは、文章のカンを鈍らせないために読む本や、原稿を書く前に読むお気に入りの文章のことだ(中略)
私のペン・シャープナーは長らく山本周五郎大西巨人だったが、自分なりの“ペン・シャープナー手帳”も作ってある。文章を読んでいて心を動かされたり、その表現に感心した文章に出会ったら、必ず専用のメモ帳に書き記すことにしてきたのである(中略)
執筆の前には、この手帳を好きなところから広げて読みはじめる。すると、気持ちが徐々に書こうという方向に高まっていく。その瞬間を逃さず書きはじめるのが、コツだ。気持ちが高まってきたのに、ペン・シャープナーのほうを読み続けていると、意欲は再びしぼんでしまうもので、絶対にタイミングを逃してはならない(と、ほとんど自分に言い聞かせている)

▲ この方法は具体的で本当に参考になります。私自身、ブログを書き始めて約半年、一番難しいのがこの書き出すタイミングです。今まではその偶然の瞬間が来るのを、毎日ただ待ち続けるだけだったのですが、自分からタイミングを引き寄せるこんな方法があったとは!!
私と同じく、気持ちを高める最初のところでつまづいてしまう全ての人に有効なのではないでしょうか。
 

紹介されていた書籍(主にノンフィクション)

また、この「調べる技術・書く技術」の中で野村進さんが紹介されている本が、どれも面白そうです。引用されたさわりの部分を読んだだけでも、すぐにでも読みたくなってしまいます。
私も未読のものがほとんどですので、興味を持ったものを備忘録として以下に挙げます。

冷血 (新潮文庫)

原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録

被差別部落の青春 (講談社文庫)

自動車絶望工場 (講談社文庫)

ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫)

スローカーブを、もう一球 (角川文庫)

もの食う人びと (角川文庫)

敗れざる者たち (文春文庫)

そして、野村進さんによる次の二冊もぜひ読みたい。

救急精神病棟 (講談社文庫)

救急精神病棟 (講談社文庫)


最後は、本書144頁で述べられた野村さんのこの宣言で締めます。

私は、作家・山口瞳が言った、
「ジャーナリストとは、他人のファイン・プレイを探して世の中に紹介する仕事だ」
という言葉の信奉者である。

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)

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アイデアのつくりかた|ジェームス W.ヤング

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※ 今回のエントリーは、以前書いていた「鶴の手帖」というブログの2013年12月18日の内容に、若干の修正を加えて転載した記事となります。

はじめに ー アイデアをひねり出せたらと思うすべての人に

イデアっていつでも取り出せるの?

「アイデア」で世界は変わっていきます。私たちの生活がこんなに便利になったことにしても、元をたどればすべて誰かがひねり出した「アイデア」の結果です。
「アイデア」の力で問題を解決していくことが、世の中に“インパクト”をもたらし、人類は技術や文化を前進させてきたのだと思います。

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

本書は、タイトルそのまま「アイデアのつくり方」を書いた本です。
帯に「60分で読めるけれど、一生あなたを離さない本」とあります。ごく薄い本で、確かにすぐ読み終わってしまいます。翻訳ならではの読みにくさはあるものの、平坦な言葉で書かれた本なので、読み終わっても「で、どうした?」と思われる方もいるでしょう。

原書の初版は1940年(昭和15年)の出版だそうです。古典と言っていいでしょうね。
著者ジェームス・W・ヤングは広告の世界の人であり、本書は主に広告の制作過程におけるアイデアの出し方について書かれています。
しかしそこに紹介されている技術はすべて、様々な分野での問題解決にも応用が効くことでしょう。「あなた」や「私」が、いま目の前にあるあれこれの問題に取り組むときにも「アイデアのつくり方」は力になってくれます。
本書には「アイデア」は作り出すにはその技術を身に付ければ良い、と書かれています。ほんの些細なことであっても、あなたがすでに何かしらの「アイデア」を作り出した経験をお持ちなら、発想することの入り口には立っているはず。それに加えて、ここぞという時に「アイデア」を自在に取り出したい、と思うのなら、ぜひ本書を手にとってみて下さい。

……すでに読み終わったけど内容にピンとこなかったなぁ、なんて人がもしいらしたら、メモを取りながらもう一度だけ読み返してみてほしいと思います。

はじめは、 アイデアの「質」は問わないことにしよう

ひょっとして「アイデア」なんて言葉を聞くと、なにかものスゴい決意が必要な気がして、尻込みしてしまう方もいるのかもしれません。でも、ちょっとやってみようかな、なんて感じた皆さんには、ぜひともその一歩を踏み出して欲しいのです。
著者も言っていますが、技術を身につけて生み出されたアイデアは、必ずしも最高のアイデアである必要はありません。本書で示されているのは、あくまで「アイデア」の出し方であり、決して「最高の」アイデアの出し方ではないのです。まずは質より量。気軽にはじめてみることだと思います。
もちろん手順を知ったからといって、あなたが現時点で持っている“能力”以上のアイデアが自然と湧き出てくるわけではありません。
ただし、技術を身につけ発想のサイクルを繰り返していくことで、ご自身で気づいていない潜在的なものまでを含めて、あなたが持つ能力を限界まで使い切ることはできるようになるはずです。また常日頃から、頭のなかにどのようなストックを残しておけば良いのかも、繰り返すことで自然と身につくでしょう。

イデアとは「組み合わせ」て「共通項をみつける」こと

もうひとつ。多くの人にとって「アイデア」とは、突然天から降りてきたり、一瞬のひらめきによって何もないところから生まれてくるようなイメージがあるのではないでしょうか。

しかし本書には「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書かれています。「ゼロから生み出す」なんて聞くと尻込みしてしまいますが、「組み合わせる」と聞くと、なんだか出来そうな気がしてきませんか?
また「新しい組み合わせを作り出す才能は、物事の関連性をみつけだす才能によって高められる」ともあります。
こちらは、洞察力のことを言っているのでしょう。大切なのは、まったく異なったように見える項目についても、それらに関連性をみいだすことで、そこから生まれるアイデアがある、ということです。
ニュートンがリンゴの木の下で万有引力の法則をひらめいたり、エレベーターの中で特殊相対性理論のアイデアを思いついたアインシュタインの話を、みなさんも聞いたことがあるでしょう。理屈が解明される前に、目の前の現象と彼らの思考の間に関連はなかったはずですが、それらが彼らの頭の中で組み合わさったのです。このように、関連性のない事柄の中に共通項をみつけだす粘り強さこそが、新しい組み合わせを生み出す基(もと)となるのです。

以上ふたつの項目は、本書の核心の部分です。


では本書に書かれた「アイデア」を出すための、5つの手順を挙げます。原文は少しわかりにくいので、私なりに言い方を変え、補足で説明を入れてみましたが、この5項目は「アイデアのつくり方」の手順そのものであるため、できればここでブラウザを閉じ、原書の方を読んでほしいと思います。

そして本に分かりにくい部分があれば、再びこのエントリーを開いてみて下さい。

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